パライソビーチ

引き続きなんとなくパラレル。
しっかしパラレルだと国名で呼べないなｗ

「バカンス？」
「そ、南の方…ニース、いや、このさいアンダルシアあたりまで足を伸ばすのもありだな」

男はにたりと笑い、自慢のフルートの手入れをしながら、名前しか知らないその土地のことを
まるで憧れの女神の名でも呟くように口にした。

「メシも美味いし酒も美味い。バカンス中ぐらいはじゃがいもから離れたいしな」


アンダルシア
その甘美な響きになぜか心がざわめいたのは、先日出会ったあの青年のせいだろうか。
そこは情熱の国だという。
ふいにあの射抜くような強い瞳を思い出した。
まとう雰囲気は柔らかく人当たりもいいのに、どこか影を持ったあの背中。
強い光の下には濃い影ができる。
そういうことなのかもしれない。

「そんな時間があるのなら、練習に費やしたほうがいいんじゃないですか」

今日の演奏、あなたテンポ遅れてましたよ。

そう憎まれ口を叩きながら、頭の中ではまだ見ぬその楽園のことを思っていた。
今年の夏はちょっと遠出してみるのもいいかもしれない。
さすがにピアノは持っていけないけれど、ヴァイオリンくらいならそんな荷物にならないだろう。


なぜか浮き足立つ自分と、不思議なほど冷静な自分がそこにいた。
何も約束をしたわけではないのに、彼に会えるような気がしていた。
そんな自分の気恥ずかしさを隠すために、無意味に手帳を開く。
まだ真っ白な夏の日付に、鮮やかな色彩の音符が載っていた


フルートがワンテンポ遅れてるのは不憫なあの子
けせせせせせ