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ちょっとカンガルーがいるかいないか確かめてくる。
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搬入もおわったー


ギムナジウムっていいよね!ってことでパラレル妄想。
いつものパラレルの番外編…みたいな…
ホント趣味走ってすいません。
半ズボンなのは私の趣味だ!(開き直り)

休暇が楽しみだったことなど、一度もなかった。
彼に出会うまで。











「あーあ、これじゃ親父に合わせる顔がねぇよ」


期末試験が終わった。
日に日に寒くなる気候とは裏腹に、生徒たちは日に日に浮き足立つ。
試験が終われば休暇だ。
鬱蒼とした森に囲まれ俗世間と隔離された学び舎から離れ、
暖かい家族の待つ家へと戻ることができるのだ。
クリスマスと新年を家族で過ごし、またこの場所に戻ってくるまでの
期間限定とはいえ、五月蝿い先輩や厳格な教師のいない楽園への旅立ち。
期末試験の成績がよければ胸を張って帰路につけたのだろうが、
ギルベルトは大袈裟に頭を抱えて、成績表を放り投げた。

「だいたいラテン語なんて喋れなくてもいいじゃねーか」
「必修科目ですから」
「でもよー」

そういいながらも荷造りをする手はどこか楽しげで、さきほどから
小さなトランクになにやらぎゅうぎゅうと押し込んでいる。
それに、ラテン語の成績が目を覆うような結果であったとしても、
馬術も武術も、実技はすべてトップの成績なのだ。
武勲を重んじる彼の父が、それを喜ばないはずがない。
だから、「家に帰ったら怒られる」というポーズは、彼なりの優しさなのだろう。

帰る家のない、私への。


控えめなノックの音がして、建付けの悪い扉が音を立てて開いた。



「兄さん」

兄とは対照的に落ち着いた声の主が、困ったような顔で立っていた。
同じようなトランクを傍らに置き、ため息をつく。

「兄さん、そろそろ出ないと汽車に間に合わない」
「もうそんな時間かよ!」

ポケットから銀色の懐中時計を取り出して、時間を確認して勢いよくぱちんと閉じる。
それからギルベルトは乱雑にマフラーを巻きつけて、帽子を深くかぶった。

「じゃあな、ローデリヒ!また2週間後」
「ええ、よいお年を」

慌しく出て行くギルベルトの後ろを、弟のルートヴィヒが一礼してから静かについてゆく。
醸し出す雰囲気ともかく、見た目はよく似ている兄弟だと思った。

ひとり、またひとりと帰省してゆく。今日発てばクリスマスには間に合う。
夜が来るころには皆出立し、静まり返った寮内は寒々としていた。
冬が来る。
暗く、寒い、冬が。

階段を降りて、食堂へ向かう。届出を出しておかないと食事にはありつけないが、
自分以外にも何人かの生徒が簡素な食事についていた。
まばらに埋まった食堂で、見知った顔を見つけた。


「こんばんは」

無言のまま、彼は顔を上げた。
不機嫌そうに眉間に皺を寄せて、にこりともせずに。

「貴様か」
「隣、いいですか」
「…勝手にするのである」

今食堂にいるものには、それぞれの理由がある。
今日帰らなくとも、明日には帰省する者。
成績が悪くて帰るに帰れない者。
そして、帰る家のない者。

私たちのように。


「妹さんはお元気ですか」


熱いスープを冷ましながら、会話の糸口を探した。
彼は食事の手を止めて、ポケットから封の開いた手紙を取り出した。


「昨日クリスマスカードが届いた」
「そうですか」
「貴様にもよろしくと書いてあった」
「…そうですか」


ふと、遠い記憶が蘇る。
小さな孤児院で過ごした、貧しくも暖かい、懐かしい日々。
あのころ私は泣き虫で、弱虫で、ピアノだけが取り柄の本当に情けない子供だった。
彼はいつも、そんな私と、彼の小さな妹の手を放さずにいてくれた。
どんなときも。


「今年もよろしくお願いしますね、バッシュ」






休暇の記憶は、無彩色。
二人だけ狭いの世界に色はなく、どんなに体を寄せ合っても温もりなど与えられるはずもない。
ただじっとうずくまって、時が流れるのをやり過ごすだけ。

だから。


次の休み、今度はそっち遊びに行くわ
うまいもん、食べさせてな。
土産はなにがいい?
そっちは寒いんかなぁ。何着て行こう


白い便箋に踊る文字。
署名の横に下手くそな似顔絵が書いてある。
音符が書き添えられているということは、これはもしかして私なのだろうか。
苦笑いをかみ殺して、手紙をしまった。





こんな日が来るなんて、思ってもみなかった。

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